リアル獄中記「ムショ活」

受刑者ブロガーJ。1993年生まれ、26歳。2019年2月に詐欺容疑で逮捕され、上野警察署から東京拘置所に移送された後、2020年2月に懲役の実刑判決を受け、現在福井刑務所に服役中。厳しい発信制限の中、娑婆に居る協力者の手を借り、獄中記ブログ「ムショ活」を毎日更新。

「偽善者たちへ」を読み終えて。

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著者、百田尚樹のユーモアの中に鋭く尖る毒舌。その言葉たちに乗せられて次々とページをめくっていたら、槍のように尖ったセリフがぐさぐさと胸に突き刺さった。この本は、自分の様な立場の人間が読むべきではないのかもしれない。「偽善者たちへ」を読んでそう思った。政治、経済、国際社会のニュースにまつわるあらゆる「偽善」。今まで社会に蔓延する問題から、「自分には関係ない!」と目を逸らし続けてきた自分にはとても重く響いた。シニカルなニュースでありながら、どこか気軽に読めるのだが、読み終えた後はしっかり深く考えさせられる。特に犯罪者である自分の、ページをめくる手がとまったのは「第2章、人権派という病」に差し掛かってからだった。その中で“「少年Aと人権」”の文章を抜粋。

『かつて日本中を震撼させた「酒鬼薔薇事件」の犯人「少年A」が手記を出しました。ひとつ気になる事があります。この本の印税はどうなるのかということです。普通印税は著者である「少年A」のものになるのですが、私はそこに違和感を覚えてしまいます。二人の子供を殺し、そのことを綴った手記が売れて、犯人が金を手にするという構造に対して、です。ホームページには元少年Aのプロフィールや、本人とみられる顔が隠れた写真なども載っていたそうです。そのうえ「絶歌」(少年Aが出した手記)について、「少年Aについて知りたければ、この一冊を読めば事足りる」などと宣伝とも受け取れる文章があったと言いますから呆れてしまいます。一方で、この期に及んでまだ「少年A」として本名を伏せ、写真では顔を隠すだなんて卑劣の極みです。出所したんだから罪は充分償ったとでも思っているのでしょうか。その意味でも私はマスメディアに言いたいことがあります。「少年A」の自己顕示欲を満たすサポートのようなことをしないでもらいたい。雑誌や本を売りたいとか、テレビの視聴率を取りたいというあさましい目的で安易に彼を取り上げないでもらいたいということです。』

これはあくまで一部なので、本にはもっと書かれている。この少年Aの手記が出版された時、子供を殺された遺族は「本の出版は自分たちの気持ちを踏みにじるもので、ただちに出版を中止してもらいたい」という声明を出したのだそうだ。そのままのセリフが全て自分に言われているような気がした。人の命を奪った訳ではないけれど、被害者が居るという事実は全く同じ。塀の中に居る自分にも何か出来る事はないだろうかと考えて、これからの長い刑務所生活を少しでも社会と繋がっていられるようにと、こんな自分を支えてくれる仲間達に自分の志をしってもらえるように、と始めた獄中記だったけれど、それは全てこっち側のエゴであって被害者感情を全く無視した「偽善」の行為そのものだった。実に愚かな行動だったと思う。しかし、これを読めたおかげで、そう言う想いを抱いている人達の存在を意識する事ができるようになった。だから書く事を止めようとは思わない。こうして色んな角度から学べる事があって、その都度自分の未熟な行動や言動をアップデートして行けば良い。初めは「偽りの善」であったとしても、1つ1つの学びの積み重ねで「偽らざる善」へと昇華して行く。何もしなければ0。「やらない偽善」よりも「やる偽善」によって10にも100にもなる可能性を感じていける。いつか、自分が描き続ける事で利を生むことができた時には、あらゆる犯罪の被害に遭われた人達に還元していきたいと思う。この他にも「犯罪者」に対しての想いが厳しく鋭い口調で書かれていた。自分が言うのもおかしいが当たり前だ。厳しい事を言われるのは至極当然の事で、犯罪に一度手を染めた人間はその傷を一生背負って行くべきだ。罪を犯すとはそういう事で、刑務所に行ったからもういい、なんてはずはない。「偽善者たちへ」は、自分の様な立場の人間が読むべきではないなんて事はなく、自分の様に社会を軽んじて生きてきた全ての罪人こそ読むべき本だ。今居る東京拘置所、そしてこれから行くことになる刑務所は外で生活している善良な人々の血税で運営されている施設だ。そこで生かしてもらえている事を忘れずに社会復帰に向かっていきたい。本を読み終え、著者の言葉に少しの違和感を抱くことなくその通りだなぁと思えた自分に少しホッとした。そう思える心がある内はきっとやり直せる。

槍のように突き刺さった百田尚樹の言葉たちは、そのまま傷口に残りしっかりカサブタとなった。