10代から20代前半の子供と大人の丁度真ん中に居たあの頃、何かに必死にくらいつく事はダサく、カッコ悪い事だった。
学ランを改造し、髪の毛も金色に染めた。何でそうなったのかは今の自分でも良く分からない。とにかく“何か”に強烈に反発し、何にも屈しない自分を創っていった。何物かになりたい希望と何物にもなれない不安がぶつかって毎回不安が勝ってしまう。いつの間にか隣には同じ不安を抱えた人達が立っていて僕らは仲間になった。そんな仲間と居る時だけは自由になれた。誰にもバカにされる事なく大きな夢を語り合えた。決して大人達には分からない。きっと“ビリギャル”もそう思っていたと思う。
ギャル真っ盛りだった高校2年生の彼女は一人の塾の先生と出会う。ド派手なギャルの彼女に対して先生は思いの他好印象を抱き、彼女もまたこれまでの大人達とは違う印象を受けた。その頃は偏差値30。学年でビリの女の子。この本は、そんな彼女が一人の塾講師と共にたった1年で日本最難関の私立大学、慶應義塾大学へ現役合格を目指す物語だ。「聖徳太子」を「せいとくたこ」と読み、「平安京」と「平城京」を双子だと思っていた当時の彼女。「Strong」を「日曜日」と答え、「Japan」の答えは「ジャパーン」だ。(正解は「強い」「日本」)こんな子が慶應に行くと言い始めたのだから、周りは勿論身の丈にも「ふざけるな!」と怒られてしまう。それはそうだ。今の僕が総理大臣にらなる!と言うのと変わりないだろう。それでも彼女はそんな自分を肯定してくれる先生の言葉を信じ、愚直に勉強に取り組んで行く。日に日に成長して行く彼女を支え続けた母、ああちゃんの存在も欠かせない。まだ塾に入る前、学校でタバコが見つかってしまった彼女は、一緒に居た奴を言えば退学を免除してやると言われたが最後まで言わなかった。その事を母ああちゃんは「さやちゃん、えらいね」と褒めるのだ。しかも先生に「自分が助かるために友達を売れ、というのが学校の教育方針なんですか?本当にそれが良い教育だとお思いなんですか?でしたら退学で結構です。でも私は娘を誇りに思います」と言ったそうだ。他にもある。周りから笑われながらも塾と家で猛勉強に明け暮れ毎日学校で寝る生活の彼女。それを怒った先生に対し「あの子には学校しか寝るとこがないんです。どうか寝かせてやって下さい。無茶は分かっていますが今だけ、あと何日かだけでも見逃してやってください」と3時間もお願いし続けた。ついに先生が折れて許してくれたと言う。こんな母がどこに居るだろう。先生に怒られて娘を叱るどころか指導を覆してしまう母が。以前欽ちゃんこと萩本欽一が「人生ってね、頼んでもないのに周りが助けてくれる人が出てくるんだよ。そういう人に出会わないとね。」と言っていた。彼女にはそれがああちゃんだったのだろう。そんな母に支えられながらコツコツと成長を重ねる彼女。しかしまだ17.18の女の子。周りからの応援が大きくなればなるほどプレッシャーも大きくなって行く。ある頃になると、2階の部屋でお皿を割ったり一人でドタバタする音が聞こえ始めたそうだ。そんな頃の彼女の日記が載っていた。
「11月26日 なんかさびしい なんかせつない なんかむなしい なんかつらい なんかくるしい なんかなきたい なんかあいたい なんかなつかしい なんかたのしみ なんかがんばる
12月10日 もう完全に寒いです。なんかいつの間に冬になってたんだろうなーって塾かえるときに思う。あせるなー つらいなー せつないなー なつかしいなー みんなが応援してくれる分、さやかは強くなる。でもこわくもなる。その分重いなにかがさやかの上にのっかるの。みんなが「がんばれ」っていってくれると「落ちらんない」そう思う。落ちたらどうなるんだろー(略)はやくおわって色んなことしたい。そのためにはしぬほどやらなきゃ。勉強しすぎて死んだ人はいない。(略)さやかビッグになりたい。みんながびっくりするほどのお金もあって、友だちもいっぱいいて、愛する人もいて、すごい幸せな、世界1幸せって自分で思えるような人間になりたい。だから今は、人にどう思われようと、何言われようとどーでもいい。」これを綴っている彼女の姿が浮かんできて胸が苦しくなった。きっと彼女はギリギリの所で闘っていたのだと思う。こんなに辛くて苦しくて泣きたいのに全て吐き出した後には必ず前向きな言葉で締めている。ギリギリな心でそれでも闘う事をやめないという彼女の覚悟の大きさ、心の強さを感じた。そして彼女は最後までバッターボックスに立ち続け、奇跡を起こす。逆転サヨナラ満塁ホームラン。無謀と言われた慶應義塾大学という険しい道をただひたすら走り続けた学年1おバカなギャル。そんなギャルの良さを理解し、夢を支え共に走り続けた塾の先生。常識、世間体を捨てどんな時も娘を包み込んだ母。娘の熱意に気付きちゃんと自分も変わっていく不器用すぎる父。全ての登場人物の温かさとカッコ良さと美しさが240ページの中にギッシリと詰まっていた。紆余曲折しながらも奇跡を起こしたビリギャルはきっと受験合格よりも更に大きな“何か”を手に入れたはずだ。人が本気になった時、この世にできない事などないと彼女は教えてくれた。そしてその熱は必ず周囲に伝播する。人が達成するかしないかは本気度の差だ。必死にくらいつく事はダサくもなくカッコ悪くもない。自分も日記を見てくれている人達に、頑張るってスゲーカッコ良いじゃんと思ってもらえるように、どんな状況だって何でも出来るんだと思ってもらえるように、常に文字を通して熱狂を届けていきたい。そしたこんな所から世の中が少しでもピースフルになっていけば“最高だ”。